あの日から、目をつぶると、自然に浮かんで来るようになった。



あいつの声、
あいつの微笑み、

怒った顔、笑った顔、嬉しそうな顔、泣き顔。


プロポーズの時の瞬間、


温もり、


抱き心地。


でも何もいいことばかりじゃない。



死んだ瞬間、


事故の瞬間。




嫌なことまで、数分前の出来事のように蘇る。




それは日によって違う。



昨日は薫と初めて喧嘩した時だった、と夾は思い出しながら目をつぶる。



今日は、何時に戻れるのだろう…。





――「タイムスリップ、しよう?」



遠くの方から薫の声がする。



真っ暗だった世界が、開けた。




太陽の光が眩しくて、片手で陰を作りながら外に出た。