「薫…っ、薫…っ」


悲鳴にも似たその声に、薫はゆっくりとこちらへ歩み寄る。

その腕が近づいた時に、夾は強引に引き込んだ。

小さい体をすっぽり収めることはできないが、それでも夾はなんとか隙間を埋めようと抱きしめる。


薫の体は、恐ろしいくらいに震えていた。



「薫…」



名前しか口に出せない―――。
そんな夾の服を掴んで、薫は嗚咽を交えながら口を開けた。



「優しく…しないで」

「え…?…今何て?」



薫の声は、たった数文字しか夾の耳に届かず、それを理解するには足りなさすぎた。


「…と、二日しかないのに…」


薫の言葉は、夾に向けられたものじゃなく、独り言。

夾に聞こえないのも無理はなかった。


わがままな考えが、薫を支配していた。



「これじゃあ、…お別れが余計辛いの…っ」

「薫?何?聞こえねぇよ…」



最後まで、夾がその叫びを掬うことはできなかった。

言葉ではなく、泣き声を漏らしはじめた薫を、落ち着くまで包むだけ。


ふがいなさが、全身を駆けずり回る。




何してんだよ――。
ちゃんと動けよ、泣かせるなよ。

―――しっかりしろよ俺…。



その間、
叶えようのないような劣等感が、夾には降り注いでいた。