「…んん…きょ…くん…」


むにゃむにゃと寝言で夾を呼ぶ声が聞こえた。


声の主に布団をかけ直す。


その子供らしい寝顔を見て、必死に言い聞かせた。
――大丈夫。彼女は今ここにいる。…ここにいてくれている――


暗示のように、何度も何度も。



シャワーを浴びて、部屋に戻ってみてもまだ薫は寝ていた。


はしゃいでしまった自分に呆れながら、布団がかかっているかどうかもう一度確認してから寝室を出た。


食器棚を開ける。

……変わらず置いてあるペアマグカップ。



『夾くんが青で、薫はピンクねっ』



ここに住みはじめてから、ずっと使ってきた。

同居して一年。結婚して数ヶ月。

……短いような長いようなよく分からない時の中で。


「…こ…?」



ん?

今なんか聞こえた……?



雑音のような音。

カップを一度食器棚に戻して、リビングをぐるりと歩こうと歩みを進めた。



「…きょっ…夾くーんっ!!どこぉ?!?!」


幼児のような声が、悲鳴の如く耳を突き抜けた。

慌てて寝室に戻る。



「かっ…薫?!」

「あっ…夾くん…」


夾を見てホッとした顔をした薫。
そのままタオルケットを体に巻いて夾に抱き着いた。