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スースーと、規則正しい寝息が聞こえる。


夾は、艶やかな髪の毛に触れた。

自然に口が綻びて、気分が良くなる。
何度この感触を求めたのだろう。



薫が…いる。




死んだはずの彼女は、何も変わらずまたふっと夾の目の前に現れた。


毎朝の思い出の中とはやはり全然比べものにならない。



やっぱりダメだな…。

本物の、薫じゃなきゃ…。



優しくキスを落として、夾は、はたと気づく。


数時間前に脱がせた服。

それは…事故の当時に着ていたものだった。



薫は、自分が死んだことを忘れているわけではなかった。

「ただいま」とか、「帰って来ちゃった」とか言ってるんだからそれは間違いない。


つまり薫は、普通の幽霊ではないけど、特別な幽霊。




生き返ったわけじゃないんだよな…。




急に虚しくなる。

気づくんじゃなかった、と後悔した。


いつか、いつか薫がまた自分の前から消えてしまうのかと思うと気が気でない。