俺は傘を差したまま、階段を上りきった場所に突っ立っていた。
彼女から目が離せない。
どれ位時間がたったんだろう。
世話しなく歩いていく人々。
人達は俺や彼女を一瞥しながら横を通り過ぎていく。
俺は相変わらずそこで突っ立っていた。
彼女に話しかけはしないでずっと見てた。
...いや、魅せられていたのかもしれない。
そして彼女もずっと俯きながら歯を食いしばって
細っそりとした華奢な肩を不規則に揺らしていた。
「ハル!!」
当然聞こえた男の焦った叫び声。
ピクンと大きく揺れる華奢な肩。
そして声がした方に...俺がいる反対の方にゆっくり顔を向ける。
彼女...もとい“ハル”を呼んだ男は“ハル”の所に駆け寄る。
そして自分が差していた傘の中に“ハル”を入れる。
男は“ハル”に諭すように何かを言っている。
俺には距離があったのと雨の音とか、通行人のパシャパシャと言う歩く足音で聞こえなかった。
そして数分もしないうちに男は“ハル”の華奢な肩を抱いて俺の横を通り過ぎて行った。
カンカンと階段を下りる音が聞こえる。
沢山の通行人のおかげで聞きなれた音。
散々聞いて、気にも留めなかった。
でも、“ハル”が鳴らしている音だと思うとしばらくその音に耳を澄ました。
明らか“ハル”はもうこの歩道橋にはいない。
階段も下りてない。
でも俺はしばらくその音を聞いていた。
カンカンカンカン....
「...帰るか」
ポツリとつぶやいて“ハル”が行った方とは逆の方に歩き出した。
