白いツバサ

数々の露店、行き交う人々、そして旅人たち。

それらを覆うかのように、大通りには街路樹が立ち並んでいる。

その葉の色も日増しに濃くなる
新緑の候。

大きく広げた葉の下を、1人の少年が歩いていた。

年の頃は13、14。

うつむきがちに歩く少年は、暗い灰みがかったボロボロのマントを身に纏(まと)っている。

すっぽりと被ったフードから少しだけ覗く前髪は、ツヤのない茶色をしていた。

華やかな大通りとは、程遠い格好と言える。

だが、少年を気にする者は誰もいない。

少年が、相手の視界に入らないように動くからだ。

あまりにも自然で熟練したその動きは、人々に道端の石と同じ認識をさせる。

誰の気にも止まらない。

そう、少年は完全に気配を消していた。


「ねえ、あなた。どのお店に行きましょうか?」

「うむ、そうだな……」


初老の夫婦の声が聞こえる。


「これだけあると、迷ってしまいますわね」

「そうだな……だが、我々には時間はたっぷりあるんだ、ゆっくり見て回ろうじゃないか」

「ええ、そうですね」


そう言って2人は微笑み合った。


「よし……」


その様子を尻目に、少年は短くつぶやく。

そして、露店を覗く幸せそうな老夫婦に音もなく近付いていった。


「あなた、あっちにも行ってみましょうよ」


上機嫌の妻は、無邪気に夫の手を引く。


「おいおい、そんなに引っ張らないでくれよ」


夫は笑いながら振り向いた。