「……レイン……シスター・レイン」


不意に、若い声が聞こえる。

その遠慮がちな声に、老婆は顔を上げた。

そこには、16歳くらいの黒髪の少女が立っている。


「エア……あなた、まだ起きているの?」


レインのその言葉に、エアは少し困った顔を見せた。


「だって……この子たちが寝なくって……」


エアは、視線を入り口に向ける。

開け放してあった入り口には、顔だけを出して部屋の様子を伺う7人の子供たちの姿があった。


「なんです、あなたたちは!」


レインは、呆れた様に言う。


「みんな、レインの話が聞きたいって……」


おずおずと言うエア。

その様子に、レインの口からは溜め息が漏れた。

レインは、エアを見詰める。


「エア……あなたも聞きたいの?」

「それは……」


エアは答えるかわりに、少し照れたような表情を見せた。


「……もう、仕方ないわね」


レインは笑う。


「でも、お話が終わったら、ちゃんと寝るのよ?」


その言葉に、子供たちは満面の笑みを浮かべた。


「それじゃ、寝室に行きましょうか」


レインは編みかけの手袋を置くと、ゆっくり立ち上がる。

それを、さり気なく支えるエア。


「ありがとう、エア」


微笑むレインに、エアは少し照れたような笑顔を見せた。


「早く早くー!」


幼い双子の男の子が、レインにまとわりつくようにしながら口々に言う。


「こらっ! レインは、そんなに早く歩けないんだから!」


それをエアがたしなめる。

この修道院での何気ない光景に、レインは目を細めて微笑んだ。