静かな雨が降り続く夜。

ただ雨音だけが響くこの夜に、人はそっと想いを馳せる。

それが、雨夜の月の様だとしても。


「雨……」


小さな部屋の中、揺り椅子に腰掛けた老婆のつぶやきが響く。

編みかけの手袋を手に、彼女は窓の外の雨景色を見つめていた。

全身を覆う、黒い修道服。

だが、その服の首周りは雪の様に白い。

そして、首から下げた十字架から、彼女が修道女であることがわかる。

頭にベールはかぶっておらず、長い白髪が流れる様に伸びていた。


ここは、セントポーリア修道院。

神に身を捧げた者が住まう場所だ。

その一室から、彼女は憂いを帯びた瞳で外を見つめていた。


「ふぅ……」


しばしの間、外を眺めていた彼女は、やがて短い溜め息と共にその視線を手元に戻す。

腰掛けていた揺り椅子が、小さく音を立てた。


「冬が来る前に終わらせないと……」


独り言を言いつつ、手袋を編む彼女。

その傍(かたわ)らには、すでに編み上がっている手袋が7組ある。

彼女は、一編み一編みに想いを込めているのだろう。

色も大きさも様々なその手袋は、どれも丁寧な作りだった。