「ファイアリーよ」


静かだが、威厳のある声。


「先程までお前の隣にいた我々も、お前と同じものを見ているわけだな?」

「はい!」


ファイアリーは、目を見て答える。


「……それは困ったな」

「そうでしょう! 即刻この少年に、何らかの処罰を……」

「いや──」


言い募るファイアリーを制止し、帽子の男は言葉を続ける。


「俺の目には、アクアの方から飛びかかったように見えたのだがな」


その声は少し震え、笑いをこらえていることが見て取れた。


「なっ……!?」

「バーン、お前にはどう見えたか?」


帽子の男は、赤毛の男に視線を移す。


「奇遇ですな、私も同じように見えました」


バーンと呼ばれた赤毛の男も、笑いをこらえながら答えた。


「そんな!」

「ファイアリーよ」


愕然とするファイアリーに、帽子の男は言う。


「お前のアクアに対する想いは嬉しく思うが、多少行き過ぎているところがあるな」

「わ、私は……」

「もう少し、真実を見る目を育てることだ」

「……はい」


ファイアリーは片膝をつくと、頭を下げた。


「申し訳ありません……」


力無いその姿に、先程の面影は微塵も感じられない。

次いで、帽子の男はアクアに目を向けた。


「アクアよ……誰にでも分け隔てなく接する心は大切だが、お前はもう少し思慮深さを学ばなくてはな」

「はい……ごめんなさい」


アクアは首をすくめ、少しおどけたように謝罪する。


「あなたの口から、思慮深いという言葉が出るとは思いませんでした」


バーンは、羽帽子の男にそっとささやく。


「茶化すな。……それだけ、俺も大人になったということだ」

「ならざるを得ませんでしたからね……」

「ああ……そうだな」