黒色のマントに栄える、長く赤い髪。

その毛先は、怒りのせいか逆立っているようにも見える。


(な、なんだ、この人は……)


女性の燃えるような瞳の迫力に、少年は思わずツバを飲み込んだ。


「私は、ずっと見ていたぞ!!」


赤い髪の女性は叫ぶ。


「な……何を……?」


かろうじて声が出た。

スリの被害者だろうか?

少年は、記憶をたぐり寄せる。

だが、今までの獲物の中に、こんな女性はいなかったはずだ。


「何をだと? とぼけるな!」


女性は人差し指を、ビッと少年に突きつける。


「貴様がアクア様を押し倒すのを、私はこの目で見ていたぞ!!」

「……は?」


思わず間の抜けた声が出た。


「貴様……この期に及んで、まだしらを切るつもりか!」

「違うのです、ファイアリー!」


少女は立ち上がる。


「彼の心は、愛を求めているのです!」


ファイアリーと呼ばれた女性は、悲しげに首を振った。


「アクア様は、騙されているのです……」

「そんなことないわ!」


少女──アクアは、すかさず否定する。


「彼は、純粋なのです!」

「仮にそうだとしても、アクア様を押し倒す理由にはなりません!」

「ちょ、ちょっと待てーっ!!」


2人のやり取りに、割って入る少年。


「誰が押し倒したって!?」


事実をねじ曲げ進む話に、苛立ちを隠せない。


「押し倒されたのは僕の方だろーっ!!」

「貴様……アクア様を愚弄(ぐろう)する気か!!」

「愚弄じゃない、事実だ!」


睨み合う2人。


「良いのです、ファイアリー。私は大丈夫……」

「いや……その言い方だと、勘違いが広がるだけだから」


アクアの言葉に、少年の口から溜め息が漏れた。