肩の位置で切り揃えられた少女の金の髪。

それは、風が吹くたびに鮮やかに揺れる。

その歳は12くらいだろうか。

あどけない笑顔を、惜しげもなく見せていた。


「こ、この辺は、沼も多いからね」


自分を見つめる大きな藍色の瞳に、少年は動揺を隠せない。

高鳴っていく胸に、思わず目をそらして答える。


「北門を出たところに、『底無し沼に注意!』という立て札があったわ」


幼さは残るが、良く通る澄んだ声。


「う、うん──」


少年は平静を装いながらうなずき、辺りを指し示した。


「この辺一帯、底無しの泥沼だから」

「こ、怖いわ……」


その言葉に、少女は体を震わせ辺りを見回した。


「大丈夫だよ」


少年は笑顔を作る。


「そのときは、僕が助けてあげる」


もっとも、そのときは法外な金額を要求することになるのだが。

見たところ、上流階級の娘だ。

彼女を救出したとなれば、親はいくらでも謝礼金を出すだろう。

少年は先ほどの高鳴りを追い出すために、あえて卑しい考えを頭に浮かべた。


「ありがとう。優しいのね」


しかし少女は、そんな下卑(げび)た考えには気付かず無邪気な笑顔を見せる。

その愛らしさと自分の愚かな考えに、少年は耳まで真っ赤になった。


「お隣、いいかしら?」


微笑みながら手を伸ばす少女。


「う、うん!」


思わず、上擦った声が出る。

少年は動揺しながらも、少女の細く白い手を掴んだ。

その温もりと柔らかさが、直に伝わってくる。


「んしょ」

「くっ……」


引き上げられ岩に登った少女は、少年の隣に腰を下ろした。


「ありがとう」

「ど、どういたしまして!」


動揺を悟られないよう、顔を背けて答える。


(な、なんなんだ、コイツ……)


心の中でつぶやく。

こんなに調子を狂わされることなど、そうあることではない。