「貴族の……娘かな……?」


少年はつぶやく。


「きゃっ!」


おぼつかない少女の足取り。

ぬかるみに足を取られる度に、何度も悲鳴を上げていた。


しばしの時が流れ──

ようやく少女は、少年が乗る岩の前まで辿り着いた。

思わず、その口から安堵の溜め息が漏れる。


「お疲れ様」


少年は、岩の上から何の気なしに声をかけた。

その声に、少女は顔を上げる。

そして少年を見つめると、明るい笑みを浮かべた。

無邪気なその笑顔に、思わず少年の胸は大きく高鳴る。


「こんにちは。この辺は、ずいぶんとぬかるんでいるのね」


幼さの残る声。

だが、とても澄んだ声。

乾いた砂が水を吸い込むかのように、その声と笑顔は少年の心に深く染み渡っていった。

風が吹き抜けていく。

頬を撫でる柔らかな風は、少年を、そして少女の髪をそっと揺らした。

陽の光を浴びて輝く、少女の金色の髪。

それはまるで、少女を包む風が光り輝いているようで……

少年は、光る風の中で微笑む少女から目を逸らす事が出来なかった。