風薫る空。

柔らかな日差しを浴びて、少年は石畳の上を歩く。

その手には2本の縄が握られている。

1本は太く強く編まれた縄、もう1本は先端に小袋が付いた細い縄だ。

少年は、その縄を軽く回しながら歩いていく。

しばらく進むと、その目に市壁、そして市門が見えてきた。

ここ、フェンネルは城郭都市。

街の周囲は高い壁によって囲まれている。

この壁は敵の侵攻を食い止めると共に、潮風から街を守る役目もあった。

そしてこの壁には市門と呼ばれる門があり、街の外に出るにはそこを通るしかない。

門は街の南、北、西側にあり、海に面した東側は港になっていた。

少年が向かっているのは北門だ。

正門である南門に比べると、それほど立派でもなく、また通る人の数も少ない。

そのため、ここに立つ門兵は、いつも暇そうにしていた。


「よし……」


短くつぶやくと、少年は自然に見えるよう顔を作る。

やらされているとはいえ、少年はスリの常習犯。

変に怪しまれ呼び止められたら、これまでのことが明るみになるかもしれないからだ。


「行くぞ……」


門兵の前を何食わぬ顔で通る少年。

門兵の視線が突き刺さる。

今日の門兵は、執拗に自分を見ている気がする。

心臓の鼓動が、早くなっていく──