太陽が陰ったこともあり、家の中は昼間だというのに薄暗かった。

さほど広くない廊下。

床に散らばったゴミや酒瓶を避けながら、少年は歩いていく。

その足は、やがて一つの部屋の前で止まった。

緊張が頂点に達する。

少年は、扉をノックした。

その手は、小刻みに震えている。


「た、ただいま戻りました……」


少年が、そう言って扉を開けた瞬間──


「遅いじゃないかい!」


怒気を含んだ言葉が、少年に襲いかかる。

ひどく散らかった部屋の中。

そこには、コットと呼ばれる丈長の赤いチュニックを着た、小太りの中年女性が立っていた。


「ごめんなさい、ボルケーノおばさん……」


うつむき、謝罪する少年。

震える体を悟られぬよう、少年は自らの腕を強く掴んだ。


「仕事はしてきたんだろうね!?」


鋭い目つきのボルケーノ。

その仁王立ちの姿に、少年はおずおずと懐の小袋を差し出した。

それを奪い取るように掴むと、ボルケーノは中をのぞき込む。


「……これだけかい?」

「う、うん……」


少年の頭に、ポケットに入れた金貨が浮かんだ。

だが、少年は平静を装って答える。


「それで……全部です」


ボルケーノは、ジロリと少年
を見た。

もし抜き取ったことがバレたら、ただでは済まない。

少年の背中に、冷たい汗が流れる。

しばしの沈黙の後、ボルケーノは納得したように舌打ちをした。

そして、無造作に部屋の中央にあった机の上に小袋を投げる。

中の金貨同士がぶつかり、高い音色が響く。

少年の口から、思わず安堵の溜め息が漏れた。

そんな少年には目もくれず、ボルケーノは部屋の隅に目を向ける。

そこには、酒瓶に埋もれた長椅子があった。