人混みの中を、器用にすり抜けて行く姿。

先ほどの少年だった。

少年は軽やかな足取りで人混みを抜けると、路地裏へと入る。

そして、人気がないことを確認すると、壁に寄りかかり懐に手を入れた。


「へへっ」


少年は、小さく笑う。

その手が再び表に現れたとき、そこには小さな袋が握られていた。

オモニエールと呼ばれる腰袋だ。

少年は、紐で縛られていた口をほどく。

袋の中には、金貨が数枚入っている。

それは、先ほどの夫からスリ取ったものだった。

相手の体にぶつかり、注意をそらして物を取る。

昔からある、スリの常套手段(じょうとうしゅだん)だ。

だが、この手のスリは、通常複数人で行われる。

少年のように単独で成功させるには、よほどの腕を持っていなければならなかった。


「僕の前で幸せそうにするからだ……!」


吐き捨てるように言う。

その顔から、すでに笑みは消えていた。

少年は小袋から金貨を1枚抜き取ると、それをポケットにしまった。

そして小袋の口を締め、それを懐に戻すと再び歩き出す。

その足は路地裏を抜け、街外れへと向かっていく。

石畳を歩くその表情は、一歩ごとに険しくなっていった。