夜空を覆う漆黒の雲。

そこから激しい雨が降る。

横殴りの雨だ。

雲は月明かりを遮り、世界を闇に染めあげている。

鳴り響く雷鳴だけが、時折辺りを照らし出していた。

その閃光に照らされて、不意に影が浮かび上がる。

暗闇の広野を駆ける1頭の駿馬。

彼は、激しい嵐にも怯むことなく突き進んでいた。

その背には、人の姿も見える。

馬上の人物は、フードの付いた闇色のマントを頭からすっぽりかぶり、馬の背にしがみつくように騎乗していた。

そのマントは激しくたなびき、首から下げた首飾りは千切れんばかりに揺れる。

嵐の広野を疾走する1人と1頭。

そのとき、空が一際まばゆい輝やきを放った。

視界が真っ赤に染まった瞬間、激しい雷鳴と共に近くの大木が砕け散る。


「ああっ!!」


爆風に吹き飛ばされる1人と1頭。

ぬかるんだ地面を何度も転がり、そしてようやく停止する。

雷に打たれた大木は激しく燃え上がり、飛び散った木片は、燃え盛って辺りを照らし出した。


「うう……」


炎の中に、短いうめき声が響く。

マントに身を包んだ人物は、うつ伏せに倒れたまま、ゆっくりとその顔を上げた。

パサッと、フードが背中に落ちる。

現れる金色(こんじき)の髪、藍色の瞳。

年の頃は18、19といったところであろうか。

それは、まだあどけなさも残る少女であった。

18、19歳といえば、明日への希望に満ち溢れていてもいい頃だ。

だが、少女の藍色の瞳は、深い悲しみの色に染まっていた。