玄関の目の前にある、二階への階段。
今まさにその階段を上がろうとしていた彼は、マグカップを片手にこちらを凝視していた。
そんなに大声を出す必要は、なかったみたい。
「あ、シロ。ホットケーキ作って!」
「……美愛子」
玄関で靴を脱ぎ、一応きちんと揃えてから彼のもとへ向かう。
こちらを呆れた目で見てくる彼、進藤真白。
彼をシロと呼ぶのは、もうずっと前、幼い時からだ。
りさには『あんまりシロシロ言ってると、犬みたいだよ』と言われたけれど、私とシロにとってはもう当たり前のこと。
私はシロの持っているマグカップからコーヒーの香りがするのに気づき、顔を明るくした。
「ひとくちちょうだい!」
「えー......」
「ね、お願い!」
ひとつため息をついたシロは、渋々といった様子で「いいよ」と言ってくれた。
ほんのり暖かいマグカップを受け取り、ひとくち飲む。
あ、ブラックだわ。もうひとくち。
「……全部飲まないでよ」
「わかってるわよ!てゆーか、ホットケーキ作って!」
見た目からして甘党そうだと言われる私だけど、そんなことはない。



