澤野くんは「ふーん」と言いながらも、納得の行かない顔をしている。
何を言われるんだろうかと思っていると、澤野くんはさらに顔を近づけてきた。
「…じゃあ、俺と付き合ってみようよ」
…いきなり、すごい提案ね。
私達の会話はカラオケの音楽でかき消されて、周りには聞こえていない。
さすがナルシスト、断られると思っていないのかしら。
私はアハハと笑いながら、小さく首を横に振った。
「なに言ってるの、澤野くん。さっきから、冗談ばっかり」
「冗談じゃないって。ミアちゃん、可愛いし話しやすいし、守ってあげたくなるよ」
…馬鹿みたい。
『守ってあげたい』なんて。
本当の私を知ったら、そんなこと絶対思わないくせに。
「…そう言ってくれるのは嬉しいけど…澤野くんのこと、まだ全然知らないし」
「これから知っていけばいいんだよ。な?」
澤野くんの声が、耳元で響く。
気づけば彼の身体は私にすごく近くなっていて、驚いた。
「…いいじゃん。ミアちゃん、俺と付き合お?」
声も近い、顔も近い。
ああもう、もう少し離れてよ。
至近距離に囁けば、女の子が落ちると思ってるの?馬鹿なの?この単細胞!



