「本当になんにもなかったの。ちょっと用事があったから、一緒に帰っただけで…」
嘘は、ついてないわよね。
それからしばらく、私が何度も『なにもなかった』と繰り返すと、みんなもようやく納得してくれた。
「なにかあったら、言ってね」
なんて、頼もしい言葉をくれた人もいた。
うーん…そんなに怖いかしら、彼。
いや、怖いけど。
今だって、教室へ入るなり威嚇してるのかと聞きたくなるほどガンをつけて、席に座っている。
でも目の下に若干のクマが見えて、ただ単に寝不足なだけだとわかった。
…あんなヤンキーな見た目でも、家のためにタイムセールへ走って、ちゃんと『お兄ちゃん』してるんだもの。
ひとって、本当見かけによらないわ。
その後、ひとりで廊下を歩いていたら、ばったり竜崎くんと会った。
周りに人の気配はなかったけれど、一応『ミアちゃん』の笑顔を向けてみる。
すると、竜崎くんはあからさまに気持ち悪そうな顔をした。
「…なぁに?竜崎くん」
「…いや…なんもねえ」
私から漂う威圧のオーラに気づいたのか、竜崎くんがパッと顔をそらす。



