シロは、顔を上げる。
「…これ」
パスケースを指差すと、シロはそちらへ視線を移した。
もちろん、私のものじゃない。
パスケースからのぞく、バスの定期券。
そこに書かれた名前に、私は頭の中が真っ白になった。
……『柳田華菜』。
私が、なんで?という視線を向けると、シロは目を細めた。
「…昨日、家に来たから。たぶん、そのときに忘れていったんだ」
気づかなかった、と言って、シロは腰を上げる。
信じられない思いで目を見開いている私に構うことなく、ソファからパスケースを拾った。
……昨日?
昨日は、土曜日。
柳田さんが、この家に来たの?
なんで……?
考えたくない色んなことが、頭の中をすごい速さで駆け巡っていく。
血の気が引いて、声も出せない。
…もしかしてふたりは、もう。
「……な、んで……?」
かろうじて出てきた私の声は、笑えるくらいに情けなかった。
明日返すつもりなんだろう、シロはパスケースを自分の鞄にいれる。



