私は咄嗟にそう呼んだ。 しかし確信はあった。 この人は、絶対昨日のあの人だと。 風が運ぶ甘美な香りが証明していた。 こちらを振り向いた彼は、驚きに目を丸めた。 「もう、大丈夫なの?」 彼の第一声はそれだった。 あの時と変わらない滑らかで優しいテノールの声。 「うん、あなたのほうこそ大丈夫?」 「俺はいいんだよ。 君が無事でいてくれたら。」 彼はそう言い、小さく笑った。 「君には本当にすまないことをした。 本当はこんな風に会う資格もないぐらい。 怖かったよね、本当にごめん。」