Purewhite Devil

「あのさ――」

『何だよ』



曲を奏で始めた泉堂君は私の顔を見ずに返事をした。


最初は怒っているのかもと思っていた事も今は何とも思わない。


だってそれがいつもの泉堂君だから。



「名前呼んでもいい?」

『いつも呼んでんじゃん』

「そうじゃなくて――薫君って、呼んでもいい?って事」



少しの沈黙の後泉堂君が口を開いた。



『好きに呼べば』

「い、いいの!?」

『あぁ』



相変わらず私の方を向いてはくれない泉――薫君。


でも口元が笑っている様に見えた。


つられる様に私も笑顔になる。


それを誤魔化す様にご飯を口に運んだ。


薫君――。


口に出さなくても、彼の名前を思い浮かべるだけで幸せな気持ちが広がっていく。



「私の事もいつでもまた乃愛って呼んでくれていいからね」



調子にのってそんな言葉を投げ掛けると、薫君は顔をこっちに向け意地悪な笑みを見せこう言った。



『気が向いたらな』



その顔反則だよ――。


私の心にぶっとくて刺激的な矢が一気に突き刺さった。


それはほんの一瞬の出来事で、だけど私にとってはきっと忘れられない出来事になるだろう。