呼吸も動きも全てがゆっくりだった。


見開いた目は閉じる事なくリリスの顔から視線を反らせなかった。



「いッッ――」



鋭い痛みが走ったが、それは我慢出来ない程の痛みではなかった。


鋭く尖った爪は私の心臓をかなり反れ、私の二の腕に深い切り傷をつけた。


傷口を押さえた手が自分の血でどんどん赤く染まっていく。


痛みが増す程に恐怖も増していく。



『その娘、を――殺、してはいけま、せんッッ――』



その声にハッとなり視線を上げると、ヴォラク君がリリスのお腹に腕を回し動きを止めてくれていた。



「今すぐその手を退けなさい。お前の様な者が私に触れていいとでも思っているの!?」



何かが爆発したかのように一瞬の内に突風が吹き、私の体は軽々と風に突き飛ばされてしまった。



「ッッ――」



再び押し付けられた背中に痛みを感じ、あまりの痛みに目を閉じ歯を食い縛った。


震える膝で立っている事も出来ず私は絨毯の上に膝まづいた。


怪我した事を思い出させるかの様に膝に鈍い痛みを感じた。


身体中が痛い――。