張りつめた空気に当てられているのか、事情がよく分からない私でさえ緊張のあまり胸が締め付けられる様だった。



『申し訳ございません。いくら貴女様のご要望とあれど、この娘を引き渡す訳には参りません』



須藤さんは目を細め、赤く染まる瞳でヴォラク君を睨み付けた。


傍にいるだけなのに私までその恐ろしさに身が震えた。



「私の言うことが聞けないというの?」



ヴォラク君はグッと唇を噛み締めた。



「もう一度だけチャンスをあげましょう。その娘を今すぐ私に引き渡しなさい」

『――――』



有無を言わせない重たい口調。


私たちの間に沈黙が流れる。


怒りのせいか、須藤さんの顔はどんどん歪んでいく。


業を煮やした須藤さんが口を開こうとした時、私たちの間に見た事のある背中が割って入ってきた。



『どうかお怒りを鎮めて下さいませ、リリス様』



凛々しい背中に凛々しい口調。


彼女を目の前にしても変わらぬ態度のアスモデウスさんの姿を見て、ヴォラク君は少しだけ安堵の表情を見せた。