もしかして、彼女の中の悪魔が目覚めたの?


でもこのヴォラク君の怯えかた――普通じゃない。


竜は静かに羽を動かし、ゆっくり須藤さんと距離を縮め始めた。



「ヴォラク君ッッ!?」

『ごめん、彼女を素通りしたら後々厄介な事になりかねないから――』



ヴォラク君の震える手をギュッと握りしめた。


須藤さんの中にいる悪魔とヴォラク君の関係は分からない。


だけど、今度は私がヴォラク君の力になりたいと思った。



「その娘を引き渡しなさい」



怪しさを帯びた須藤さんの瞳は狂気を含んでいた。



『それは出来ません。ルシファー様のご命令に背く事になってしまいます』

「見事なまでの忠誠心ね。だけど気にする事はないわ。私がする事にあの人が腹を立てた事などただの一度もないもの」



いつもニコやかで軽快に言葉を投げ掛けてくるヴォラク君がこんなに気を遣って話をするなんて――。


ヴォラク君よりも偉い立場の悪魔なんだ。


慎ましやかな笑みを浮かべる須藤さん。


その笑みは美しくも不気味だった。