どの一軒家よりも高く、どのマンションよりも高い場所から私は今街を見下ろしている。


初めての光景に心踊るどころか、私は身震いした。


夢だと思いたい。


だけど頬に感じる生ぬるい風。


背中と膝裏に回された腕の感触。


少し見上げた先に見える銀色の髪を靡かせている美しい横顔。


それはどれも幻でも夢でもなかった。


そしてまるで私に現実を突き付けるかのように、時折翼の音が耳に届いてくる。



『怖いのか?』



彼の心配そうな顔を見て、本当に気にかけてくれているんだと思った。



『怖い、です――』



自分が何に対して恐怖を抱いているのかさえ、もう分からない。


アスモデウスさんは震える私の体をしっかりと抱き抱えてくれている。


命令を受けて私を迎えに来たと言っていたけど、今の彼のこの気遣いはきっと彼が持っている優しさなんだろうと思う。


本当にこの人は悪魔なのかな?


貴方もヴォラク君みたいに恐ろしい一面を持ってるの?


悪魔って――何――?