「おーい!」


 階段下から聞こえる大きな低い声。

 体育が終わって下駄箱から靴を取り、
 階段を少し登った時のことだった。

 ゆっくりと振り返り下に目を向けると。


「なぁ、優愛」


 そこには、私の一つ上の幼なじみ、
 大谷光汰【通称:こうちゃん】だった。

 こうちゃんは私の階段二つ下から
 私を見つめた。


「ジャージ貸してくんねーかぇか?忘れちってよー。頼む!水谷に怒られちまうんだよー。貸してくれ!」


 水谷とは体育の先生で、
 通称、熱血鬼コーチと呼ばれている。

 一般的な熱血先生とは違って
 女など容赦がなく
 ジャージを忘れただけでも
 一時間正座での授業だ。


「別にいいけどサイズあうの?」

「お前どうせMだろ?構わねーよ俺。」 


 何で知ってんだよ、こいつ。


「おい、突っ立ってねーで早く着替えてこいよー!」


 何なの、この態度は。
 人から貸してくれとかなんとか
 言っといてこの態度。まぢ無神経にもほとがあるよ!



 教室へ向かい着替えると、
 廊下で待つこうちゃん。

 周りには女子がこうちゃんを
 囲んでいた。満面の笑顔のこうちゃん。


 そこそこイケメンのこうちゃんは
 中学の時からモテていた。

 私にはその良さが分からないけど…
 何であんな性格悪い奴が
 モテるのか知りたいわ、逆に。


 そんなこと考えながら
 無言でこうちゃんの元へ行き
 ジャージを投げた。私を睨むこうちゃん。


「女の子と話してる時間があるなら、早く着替えてくれば?」

「可愛くねーな。おめー。」


 ムスッと膨れるこうちゃん。
 私は無視をして自分の机へと向かう。
 

「てめー、覚えとけよ!」


 ジャージを私の方に向けながら
 バカみたいにムキになるこうちゃん。

 叫んだ後急いでどこかへと
 走っていった。


「いーなぁ、柳原さんは。」

「そうかしら?大谷先輩は優しいから構ってあげているだけよ。」


 同じクラスの沼田さんが
 あざけ笑いながら言った。


 聞こえてるんですけど。  


「また沼田さん僻んでるねー、優愛大丈夫?」


 この子は親友の佐藤桃。
 小さい頃からずっと一緒にいる。

 親友歴16年。


 細くて髪の長いサラサラヘアー。
 天然でとても可愛い女の子だ。


「全然平気!そんなことより、次は自習だね♪やったあ。」


 子どもみたいにはしゃぐ私。
 その隣で笑う桃。