「大谷…先」


「聞いてんの?何で俺の女虐めてんだよ!」


 沼田さんを怒鳴りつけ、髪を強く握るこうちゃん。


「ご…ごめんなさい」


「んだ、てめー!タダですむと思うんじゃねーぞ!」


 こうちゃんの手からは血がたくさん流れていた。


「こうちゃん!もういいから!手当てしなきゃだめだよ!」


「でもよ、こいつ!お前の髪切ろうとしたんだぞ!」


 首を横に振りながら、こうちゃんの腕にしがみつく私の目からは涙が流れていた。
 こうちゃんはゆっくりと沼田さんの髪から手を離した。
 沼田さん達は一斉にトイレから出て行った。  


「こうちゃん…ごめんなさい。明後日大事な試合があるのに…私のせいで」


「んなもん、お前の事守れたらへでもねーよ」


 八重歯を見せて笑うこうちゃんに微かに私の胸が高鳴った。 
 あの後、こうちゃんは急いで病院へ向かい、手当てをしてもらった。
 傷は後少しの所で神経を切っていた所だった。
 医者はしばらく練習をしない方がいいと
 言っていたが、こうちゃんはそれを無視をして試合にも
 参加すると言っていた。つくづく馬鹿な男だ。
 私のせいで怪我をしたのにこうちゃんは試合に出る。
 私が何度も何度も止めたのに試合に出たがっていた。


 次の日、学校に着くと桃の怪我は大した怪我ではないという。
 そして、沼田さん達が私と桃の所に謝りに来た。
 私と桃はいいよいいよと笑いながら言ったがこうちゃんは
 謝っても許しはしないだろうと思った。

 そんなことは沼田さん達に
 言えるわけがないのでこうちゃんにも伝えとくねと
 笑って言う私に沼田さん達は謝ってどこかへ行ってしまった。
 平和な時間がまた戻った気がした。
 明日はこうちゃんの試合。
 桃に伝えると桃は部活で他の高校で練習があるという。
 私一人で応援に行くかと思うとなんだか気まずい感じがした。


 そうして時間が刻々と過ぎ、日が沈み、日が開けると
 私は早速私服に着替え化粧をして家を出た。
 こうちゃんと中川先輩たちの
 お弁当を抱えて試合会場へと向かった。
 試合会場に着くと、目立ったのか周りの男達が
 振り返って私を見る。そして、こうちゃん達を見かけ
 声をかけようとしたその時。
 ドンッ 肩と肩がぶつかった。一瞬臭うタバコの臭い。

 謝って逃げる私。今の人たち…こうちゃんの敵の人達だ!!見るからに悪そうな人達だったな。
 そう思っていたら、こうちゃんの元へ辿り着く。


「あ、優愛じゃん!来てくれたんだ、サンキュー♪」


 八重歯を見せて、喜ぶこうちゃん。
 中川先輩はいつにも増して無表情でどこかを見つめていた。
 楽しく笑う私とこうちゃん達。
 まさか…こんな事になるなんて思っても見なかった。
 この試合が最悪の1日になるなんて、本当に嫌だったな。