光汰の言葉に俺はなぜか
 こう言ってしまった。


「俺は柳原可愛いと思うけどな」


 何でそんなことを言ったのか
 正直分からない。

 だけど、他の女とは違う…
 雰囲気がしたから
 俺も柳原を見るようになったのかもな。


 部活熱心の柳原を毎日見てた。

 理由は単純に
 親友の好きな女だから。


 どんな女なんだろうと思ってた。


 あの日
 俺はたまたま光汰と別行動を
 してた時だった。


 5月。桜もまだ綺麗に咲いていた頃。

 一階の通路を渡って歩いていたとき
 すれ違いに花の香りのする
 女の子が俺の横を通った。


 耳にイヤホンをつけ、
 音楽を聴いていた俺はその子を
 つい目で追ってしまった。


 ふわっ

 風に靡いて長い髪の毛が微かに揺れる。
 その女の子は牛乳と箱を
 持って学校の裏へと向かって行った。

 俺は後をつけ、学校の裏の
 誰も来ない壁裏に辿り着いた。


 よく見ると女の子の下には
 小さな猫たちがたくさんいた。

 箱の中にラップを引いて
 牛乳を入れて猫たちに与えている。


 優しい女だな。
 俺は、そう思った。


 こんな女もこの学校にいるのか。

 そして、俺はその子を
 目で追うようになっていた。


 だけど、その優しい女の子は
 俺の親友の友達だった。

 親友が他の女たちとは
 何か違う特別な感情を
 持っていることに俺は気付いたんだ。


 だから、あまり見ないように
 話さないようにしてた。



 そう思っていたのに
 今日の部活の途中で
 柳原が怪我した所を見て
 無意識に運んでた。


 俺は親友の光汰に
 悲しい思いをさせてしまった。


 光汰、ごめん。






 柳原は他の女とは違う。


 ただ、それだけだから。