保健室。 
 薬や湿布などの匂いがつんときた。
 病院みたいな、家みたいなとこ。
 保健の先生は留守のようだった。


「…」


 中川先輩は棚のところを何やらいじっていた。

 生まれてこの16年間、彼氏もいたことがない私。
 だから、部屋で男の子と二人きりになったのは
 こうちゃん以外で初めてだった。

 中川先輩の後ろ姿がなんだか
 逞しく見えてきたのは
 私が中川先輩を意識し始めたからかな?
 お…男の人として…。


「おい」


 突然振り返る中川先輩に驚く私。


「へっ?」


 慌てる私の前にしゃがみこむ中川先輩の
 手には包帯や湿布が握られていた。

 そして、私の足首を触り持ち上げようとした。激痛が走った。


「わ…わりぃ。女の足なんて触ったことねーから加減が分からなかった。すまん…」


 謝る中川先輩に優しさがあって私は逆に恥ずかしかった。
 湿布を張り、包帯を巻く。
 ところが、包帯はぐじゃぐじゃで今にもほどけそうだった。


「あの、先輩?もしかして不器用ですか?」

「…」


 くすくす笑う私。
 中川先輩はそっぽを向いた。
 耳が真っ赤だ。可愛い中川先輩の一面が見れた。

 ガラガラッ
 扉が開く音がして、扉方面を見るとこうちゃんがいた。


「大丈夫か?優愛」


 いつものこうちゃんではなかった。
 本当に心配している表情をしていた。


「大丈夫だよ、こうちゃん。先輩ありがとうございました。今日はもう帰りますね」


 立ち上がろうとする私。中川先輩も一緒に立つ。


「家まで送ろうか?」


 中川先輩が私に、そう言った途端
 こうちゃんが私の腕を掴んだ。


「俺が送ってく。海斗、先に帰っててくれ」


 いつもと違うこうちゃんに胸が一瞬高鳴った。


「こうちゃ…ん」


「帰るぞ、優愛」


 ググッと私の腕を掴むこうちゃん。
 どうしたのかな、こうちゃん…。その時だ。


「…」


 ぐいっ

 私の右腕が中川先輩に、掴まれる。
 足が止まる私に、こうちゃんは振り返って私と中川先輩を見た。


「中川先輩?」


「…柳原、お前。」


 え、なに?戸惑う私。思考がついていけてない。


「もうサッカーボールと、間違えて蹴るなよ」


「お前親かよっ」


 笑うこうちゃんに対して先輩は


「…柳原って、俺の妹に似てるから」



 え、それだけ!?
 てかもしかして私を運んでくれたのも手当てをしてくれたのも
 妹を心配する兄の気持ち…。

 そんなぁー。一気にヘコむ私を見てこうちゃんは


「海斗、手離せよ。帰るぞ優愛」

「う、うん…」


 バッ
 するりと中川先輩の手から
 私の腕がすり抜けた。

 私と中川先輩は兄妹かぁ…はぁ。
 この時から私たちの運命の
 歯車が動きだしたのでした。