今はもう途切れ途切れの、小学校入学式の記憶。
1つ覚えているのは、あの頃から私の恋の歯車は、ゆっくり…ゆっくり。
回り始めていたと言うこと……

「一年生の皆さん。ご入学、おめでとうございます。」

幼稚園を卒業したばかりの私には、少し意味の分からない言葉が並べられる。
でも。大きな不安と、少しの期待で胸がいっぱいの私には、関係のないことだった。
周りを見回してみる。あ、ママ!ママはにこっと笑って、小さく手を振る。
隣の女の子を見る。すごく退屈そう………
男の子を見てみる。寝てる……
お隣に住んでいる、輝君を見てみる。あ、気づいた。輝君も、笑ってくれる
私も、微笑み返す。あれ?輝君ちょっと顔赤い?気のせい…かな?
そんなことを考えているうちに、話は終わっていた。

「集合写真を撮りまーす!一年生の皆さんは集まってくださーい」

若いきれいな女の先生が、声を上げる。
首には「藤本」と書いてある。

「……ほん?」
「優美ちゃん、違うよ」

ふと、後ろから自分より少し低い声が聞こえた。

「あ!輝君!」
「優美ちゃん、あれはね、ふじもとって読むんだよ。」
「へ~!そうなんだ!」
「うん。優美ちゃん、呼んでるよ。行こう?」
「うんっ!」

私と輝君は仲良く手をつないで、私のママと輝君のママのところへ駆けた。
私と輝君のママは、話をしていた。私のママが輝君に気付いて、

「あら、輝君。こんにちは」
「こ、こんにちは」

輝君は少し緊張したように返した。
今度は輝君のママが、私に身長を合わせるように、腰をかがめて

「優美ちゃんも、こんにちは」
「こんにちは」

私は、飛び切りの笑顔で答えた。
まぁ。と輝君のママは私の頭を撫でてくれた。

「さ、先生が呼んでるよ、行きましょ」

と言ったのは、私のママ。

「うんっ」
「うんっ」

私と輝君は元気よく答えた。