「うん、してない……」


ふーん、と言いながら、藤堂さんは机の横のチェストに置かれた、ティッシュを渡す。


私は1、2枚引き抜き、顔を拭く。


「今はいないんだろ?」


メガネがないと、また違った優しい笑み。


そして、その言動にドキドキしはじめる。


も、もしかして、口説かれ……


てるの? なんて図々しい予想をしていたら、


「いないよな。こんなペッタンコ。まぁ、ちょうどいいよ。心おきなく、こき使える」


「こ、心おきなく?」


「ああ。だって、他人の女をパシリにするなんて、後味悪いだろ?あ、これ、今日の分のお駄賃」


ひんやりとした100玉が、渡される。


その硬貨一枚を、不服のあまり見据えていたら、藤堂さんは言う。