唖然と、去った後も廊下の方向を見据えていたら、顎を掴まれ、また強引なキスがはじまった。


「あ、あつ……待っ」


軽く口づけした後、

「次は拒むな」

と、篤志は睨む。


唇をこじ開けられて、舌も水分も奪われ、水分は取られた分だけ、相手から流れてくる。


「……妃奈は、逃がさない……」


「逃げないよ。どうして、そんなこと言うの?神崎社長の言葉を信じてるの?」


「いなくなったのは、事実さ。お腹空いたろ。ご飯食べよう」


私のこめかみに唇を落とし、そのままテーブルまで運んだ。


イスに、優しくゆっくり置かれる。


篤志は、すぐに離れ、向かい側に行こうとした。


「……篤志こそ、急にいなくなったりしない?」


そう言うと、彼は振り返り、目の前でひざまずいた。


私はぱちくりと、視線より下にきた、彼の顔を見返した。


「覚えてないだろ。君が初めてくれたのは、チョコレートだ。キスじゃない」


「え?」


「本当に覚えてないのか?去年の冬だ。1年も経ってないのに」


それでも、へぇ? と間抜けな声を出すと、彼は額を押さえ、やれやれ、とぼやく。