――コッチニ、コイ。ジユウヲヤル――


一旦、ためらう俺に、さらなる誘惑。


まだ下を見てないのに、クラクラする。


――父さん……


――るみおば……母さん……


「妃奈……」


失ったものを呼んだ後、今度こそ柵に付いた手に力を入れた。


――篤志さん!


あ、兄ちゃんの次は、この幻覚?


これは反則だろ?


背後から、まだする声。


――待って! 篤志さん……!


本当に自分はおかしくなってしまったのか。

現実と幻の区別がつかず、思わず振り返る。


「……ッ……ヒ、ナ?」


ドレスじゃなく、制服を着た女の子が、走ってくる。


彼女はまた、あの時のようにコケた。


「キャッ」


「妃奈!?」


俺は迷わず、駆け寄る。


大丈夫か? という問いに返ってきたのは、

パンッ、という音。


頬に痛みが走り、唖然とする。


「なん、で?……なんで……?」

と、妃奈は泣きながら、すがりつく。