「神崎社長には、子どもがいないからね」


他人になる、ってそういうことなの?


「19年間の名前が変わってしまうなんて、何より家族が変わってしまうなんて、相当辛い決断よね」


ママは、ほぅとため息を吐いた。


「私だったら嫌よ。自分の子どもを、他の家に渡すなんて。雅彦や奥さん、平気なのかしらね」


「そんなの――」


平気なわけないはず。何よりも、本人が。


「ひ、妃奈?」


目の前で、ママが固まる。


ぼろぼろと涙が落ちてくる。


「あ、あつ、しさ……」


今、どうしてるの?


どこにいるの?


会いたい。


今も、あんなに寂しそうな顔をしてるの?



そんな風に思っても、二度と会えないんだ。


――おかけになった電話番号は、現在使われておりません。


アナウンスが受話器から聞こえる。


ベッドで泣いてると、ママが呼びにきた。


「妃奈。意外なお客さん。駿君、おっきくなっちゃって――」


彼との再会が、それこそ意外なチャンスをくれた――