ゴトン、と鈍い音がした。


力が抜けた腕は動かない。


「妃奈!?」


「あらあら、大変。じゃあね、子猫ちゃん」


女性は手を振り、窓を閉め、車は発進した。


「妃奈。どうした?その荷物は?」


彼は何事もなかったかのように、普通に声をかけてきた。


だから、私も必死に、取り乱しそうな自分を抑え、ちゃんと話そうとした。


「お、叔母さ、に返すお鍋……」


なのに、声が出なくて、絞りだそうとすると、別に我慢してたものが溢れる。


視界が、それで濁る。


「おじさんは出かけた。競馬仲間が来てさ。昼間にちゃんと休めばいいけどな。

おばさんはちょっと友達の家に行くって。すぐ帰ってくるらしいから、ウチで待てばいい」


篤志さんが風呂敷を拾い、私の手を持つ。


連れて行こうとしたんだ。

だけど、私は動かない。


「妃奈?」


足元のアスファルトに、水滴が落ちる。