コイン★悪い男の純情

 そこへ、淳也が帰って来た。そして、淳也が澄ました顔をして、たえの部屋に入って来た。

 たえとかんなは顔を見合わせると、また笑い転げた。

 「何や、人の顔を見てそんなに笑うなんて、失礼じゃないか」
 「あっ、寝小便のおっちゃんや」

 話を聞いていたのか、勇太までそう言うと、たえとかんなはまた笑い出した。

 「寝小便のおっちゃんって、おじさんの事か」
 「そうや。おっちゃん、ちんちん汗かいたんか」

 「これ、勇太。駄目よ。ご免なさい、淳也さん。いま、吉見さんに淳也さんの子供の頃の話を聞いていたの」

 「寝小便の話だろ。お袋、頼むよ。変な事は言わないでくれよ」
 「ええ や な い か。今 の 話 や な いん や か ら」

 「今する訳無いだろう。まいったな。もう帰ってやらないぞ」

 4人は寝たきりの病人がいる事も忘れ、笑いながら楽しく語り合った。

 「よう わろ た わ。今日 は 楽 し かっ た わ」
 「こんなに楽しそうなお袋の顔を見るのは何年ぶりだろう。みんな、かんなさんのお陰です」

 「私は何も。吉見さんって、すごく面白いの。私可笑しくって、涙が出たほどです」

 「良かったな。お袋。ありがとう、かんなさん」
 「いいえ~。あっ、いけない。もう、こんな時間だわ。帰らなくちゃ」

 時計は9時を過ぎていた。

 「かんなさん、遅いから、僕が送って行きます」
 「送ってもらわなくても、結構ですよ」

 「いえ、送らせて下さい」
 「送っ て も ら い」

 「じゃ、そうしょうかな」
 「そうして下さい」

 大枝南福西町のたえの家から、大枝西新林町のかんなの住む市営住宅まで、自転車で約10分ほどの距離だった。