電車に揺られていると、少しずつ気持ちは落ち着いてきた。
そんな私を気遣いながら、としくんは時折視線を投げて様子をうかがっている。
「大丈夫だよ。緊張はしてるけど、一番大きな悩みは解決できてるから」
私はそう言って、小さく笑った。
「本当に、駆でいいのか?」
「うん。一度も迷わなかった。駆と一緒にいられたらそれでいいんだ」
「駆のご両親も、ちゃんと美乃を受け入れてくれてるんだな?」
「そりゃもう。私の事を大切にしてくれてるよ。駆よりも私の気持ちを優先してくれるし優しい」
そう。駆のご両親は、私と駆との結婚を今では心から応援してくれて、何かと相談にのってくれる。
これまで苦しんできた駆の体の事。
ご両親の心情を思うと切ないし全てを理解できたわけではないけれど、私の存在によって少しでもその重荷をおろしてくれるのなら、嬉しい。
「もしも……今の選択を美乃が後悔する時があるとすれば、その時は、駆の将来をも潰すって事を覚悟しておけよ。駆と一緒に歩む人生を選ぶってのはそういうことだ」
電車の音に紛れながら、低い声が届く。
私が逃げる事も、瞳をそらす事も許さないと訴えるとしくん。
私を大切に考えてくれているからこその厳しい言葉が私の気持ちに響いてくる。
「駆の将来も、私の幸せも、ちゃんと考えてるし覚悟してるよ。
でも、ありがとう」
吹っ切れている気持ちをそのまま表情にのせて、私はとしくんにそう告げた。
私の側にいて欲しいのは、駆その人であって、それだけでいい。
私だけを慈しみ、愛情で包み込んでくれる駆だけでいい。
たとえ、子供を持てない未来が待っていても、いいんだ。

