甘恋集め

研修最終日の晩、前半の研修を終えた慰労会という名の飲み会があった。

同期全員と、研修でお世話になった研修部や人事部の先輩たちも交えた大きな宴会は深夜まで続いた。

地方に配属が予定されている同期もいて、全員で揃う機会が減ってしまうと思うと、その寂しさからなかなか解散できずにいた。

そんな宴の中で、私は駆の側から離れず、ずっと一緒に飲んでいた。

駆も私から離れようとはせず、周りが大騒ぎする和室の片隅で、そっと指を絡ませ合っていた。

『この後、どうする?』

どちらからともなくそんな言葉が交わされて、騒がしい雑音が遠くに消えて。

二人の言葉だけが私に届く音の全てとなったけれど、それでもやっぱり

『どうしようもできない』

と返すしかできなかった私は、臆病なのか真面目すぎるのか。

駆に惹かれる気持ちを隠したまま、ぎゅっと唇をかみしめた。

私も駆もはっきりと気持ちを伝えたわけじゃない。

好きだとも、付き合いたいとも言ったわけでもない。

それでも、私たちがお互いに離れがたい気持ちで結ばれている事に気づくのは自然なことだった。

駆からの視線には、私と同じ気持ちが漂っていて、想い合う温かさを感じた。

それでも、『好き』とはお互いに言わなかった。

私にはとしくんの存在があったし、駆も、何かに囚われて、気持ちを口に出せない切羽詰まったものを見せていた。

この時の私は、単純に。

駆には恋人がいるんだと、そう思っていた。

それが悲しかった。

たとえ私に対して好きだという気持ちを持っていても、彼女の存在が大きくてどうしようもできないんだと、そう思っていた。

けれど、駆には恋人なんていなかった。

私への気持ちを封印しなければいけない、もっともっと切ない現実を抱えていた。