甘恋集め

ようやく息を整えて、としくんと二人で改札を抜けた。

私の緊張が思いの外大きいのに驚いてしまう。

会社から駅まで走ってくる途中は感じなかったのに、こうしてゆっくり歩いていると、どんどん緊張感は増してくる。

落ち着くためにもう一度走りたくなってくるな。まあ、これだけ混雑している構内を走るわけにはいかないけれど。

ふと隣を歩くとしくんの横顔を見ると、普段以上に落ち着いていて、口元には笑みすら浮かんでいる。

私はこんなに緊張しているのに余裕だな。

「としくん、緊張してないの?」

「ん?してないこともないけど、それよりもわくわくする気持ちの方が強いかもな」

「わくわく?今から何しに行くかわかってる?」

さらっと言うとしくんに驚いて、私の声は大きくなった。

「わかってるよ。高橋のお父さんに、俺たちの決意を言いに行くんだろ?ちゃんとわかってるから安心しろ」

笑いを含んだ声にはやっぱり余裕があって、私との違いが大きすぎる。

私はこんなに緊張してるのに。

「俺は、婚約を解消するっていう緊張感よりも、やっと結花ちゃんを自分のものにできる嬉しさの方が大きくて、わくわくしてるんだ」

ホームに向かって階段を上るその背中は軽やかで、言葉通りわくわくしているのがわかる。

結花ちゃんは物じゃないんだけど、と思ったことは今は口に出さず、としくんの後から階段を上がった。

さっき走ったばかりで、がくがくする足をどうにか動かしながら、やっぱり私は緊張していた。

穏やかなとしくんが、羨ましい。