「お疲れ様でした」
秘書課のみんなに挨拶を終えて、急いで着替える。
慌ただしく残業をしている人が多い中帰るのは心苦しいけれど、今日はどうしても早く退社しなければならない。
着替えを終えて会社を飛び出した後、駅までの道を走った。
普段から体を動かすのは大好きだけど、ここまで全力疾走なんてしないせいか、かなりきつい。息もあがるし足も震える。
それでもスピードを落とさず走った。
駅に着いた時には、はあはあと息切れをして、両手を膝に置いたまま動けなかった。
通り過ぎる人の怪訝そうな様子が気になりながら、しばらくそうするしかできなかった。
本当に、疲れてしまった。
「バカじゃねえの?まだ時間に余裕あるのにあんなに走って来て」
頭上から聞こえる呆れた声に顔を上げると、そこにはとしくんの顔があった。
眉をよせて意味がわからないとでもいうように腕を組んでる。
「そんなに勢いつけなきゃ言えないような事でもないだろ?
もっと気軽に考えろよ」
私の頭をぐしゃっと撫でて笑ったとしくんは、ずっと私を見守ってくれていた優しい瞳で励ましてくれた。
としくんだって、緊張しているに違いないのに、そんな素振りはちっとも見せずに気遣ってくれる。
時々意地悪だけど、本当は優しいとしくん。
お互いに愛し合えたなら良かったのになって思う。
幸せになれただろうなって思う。
でも、それは無理だってようやく二人とも気づいたから、今日は勇気を出そうと決めた。
正しい道を歩いていくために、そして、私たちと結花ちゃん、駆がみんな幸せになれるように、勇気を出すって決めた。

