甘恋集め



利也さんが住むマンションは、もともと利也さんのご両親が住んでいたらしい。

一人暮らしをしている4LDKは広すぎて、かなり贅沢。

物があまりないせいか、ちょっと寂しい感じも拭えない。

キッチンに揃えられた幾つかのコーヒーメーカーや、並んでいるあらゆる種類のコーヒーの粉を見れば、カフェのオーナーだとわかるけど、それ以外に生活感もない部屋に驚いた。

「本当に、何もないでしょ?私も滅多に来ることなかったけど、来ても居心地悪くてすぐに帰ったもん。食器とか雑貨とか持ち込むのも禁止って言われてたから雑誌一つ置いて帰る事さえなかったんだよ」

「そうなんだ……。神経質なのかな」

「ううん。違うと思う。私との結婚が現実になる事はないってわかってたんじゃないかな。お互いの気持ちが全然盛り上がらないのはお互いが一番わかってるし、いつかは離れるのなら、この部屋に何も残して欲しくなかったんじゃない?」

美乃ちゃんが持ってきてくれたケーキをお皿に分けながら、ひそひそと女同士で話してる。

普段のカフェとは逆で、私と美乃ちゃんが利也さんにコーヒーを用意するのはおかしな気分だ。

と言っても、コーヒーを淹れるのはコーヒーメーカーで、私達はポットにコーヒーが落ちていくのを待っているだけだ。

「で?としくんは、どんな顔してコンパに乗り込んだの?」

「は?」

「今日結花がコンパで彼氏見つけるって張り切ってる……みたいな話をしたら焦る焦る。私と駆ととしくんの三人で巧さん、あ、高橋専務ね。
三人で婚約を解消するって言いに行ってる時のそわそわした顔、写真に撮っておきたかったよ」