ずっと駐車場で話しているわけにもいかなくて、利也さんは車を出した。
どこに向かうのかわからない私に、
「俺の誕生日、祝ってよ」
一言だけ。
それ以上は何も言わないままで真っ直ぐに前を向いて運転だけに集中しているように見える。
その横顔は、どこか優しくて、緊張したままだった私の気持ちがほんの少しだけ緩んだ。
「まつ毛、長い」
横顔を見たまま、思わずぽつりと出た。
本当、羨ましいくらいに、長いまつ毛だな。
「それに、髪の色、茶色いね……」
車に差し込む光が、利也さんの髪をつややかに照らしている。
「ここに、小さな傷があるよ」
指先で、軽く触れた。既に薄く、白くなっている小さな傷跡は、こうしてじっくり見ないとわからないくらい。
利也さんの頬に触れた指先は、ちょうど信号待ちで車が止まった時に。
包み込まれるように、彼の手に覆われた。
傷跡に触れてる指先を喜んでいるように大きな手で押し付けられて。
「ごめんな。今まで待たせて。つらかっただろ?」
私を見ないで、正面を見たまま。
「俺の事、好きでいてくれてると思ってたけど、いつ他の男に持ってかれるか、かなり不安だった。今日のコンパだって美乃が教えてくれたけど、限界だった。そして、巧さんに、二人で伝えた。俺には惚れてる女がいるし、美乃にも大切な男がいるって。そのあと、急いで結花ちゃんを、さらいに行ったんだ」

