膝に置いた私の手をそっと握った利也さんは、
「でも、もう無理だ。結花ちゃんに会ったから、もう美乃とは結婚できない」
私に言い聞かせるように、話す。
その気持ちを私に注ぎ込むようにぎゅっと握ってくれる手を見つめる私。
「でも、俺の気持ちが変わったからといって、すぐに美乃との婚約を解消するのは抵抗があったんだ。……一人ぼっちの美乃を見捨てるようで、できなかった」
「うん……」
「いっそ、結花ちゃんの事は諦めて、美乃と結婚した方が、全てうまくいくんじゃないかって、そう思った時もあったけど」
そこで言葉を区切ると、小さく肩をすくめて苦笑い。
「美乃は見抜いてたんだよ。俺が結花ちゃんに気持ちが動いた事。
結花ちゃんを俺のものにしたいって思ってる気持ちを見抜いてた」
「まさか……そんな話、ちっともしてなかったよ」
「ああ、結構デリケートな話だったし、周りは勝手に進めてたから。
でも、美乃は、俺の気持ちも、結花ちゃんが俺に惹かれてるって事もわかってた。だから悩んでたし、どのタイミングで婚約を解消しようかって苦しんでた」
利也さんの気持ちを聞かされただけでも私の許容量はいっぱいいっぱいなのに。
私の知らない美乃ちゃんの気持ちを教えられて、理解できる範疇はとっくに超えてる。
「私が利也さんに惹かれてるって、美乃ちゃん、気付いてたの?」
唯一問い返せたのは、一番気になった事。
美乃ちゃん、気付いた時、どんな気持ちだった……?
つらくはなかった?

