何度かこのお店に来た事があるという利也さんが、幾つか料理を選んでくれた。
好き嫌いがない私に、安心したように、女将に注文してくれる利也さんをちらちらと見ながら、やっぱり鼓動は跳ねっぱなし。
どきどきと言っている音が筒抜けじゃないかと恥ずかしくなってくる。
相変わらず近い距離のまま、背中に感じる利也さんの腕の温かさ。
離れて欲しいような、このままずっと近くにいたいような、複雑な気持ち。
「このピアス、使ってくれてるんだ」
「あ、はい、お気に入りです……」
私の耳元をかすめるように撫でる利也さんは、満足そうに表情を緩めた。
利也さんが花の中で一番好きだというバラの花のピアス。
真紅のそれは、絶えず私の耳元に咲いていて、捨てなくてはいけない、でも捨てきれない私の思いの象徴だ。
美乃ちゃんから聞いていたのか、私の誕生日に会社まで訪ねてきてくれて。
『お誕生日おめでとう』
その場で私の耳に咲かせてくれた。
その日、出張で会社にいなかった美乃ちゃんに見つかる事もなく、何となくその事は私一人の胸にしまっておきたくて。
美乃ちゃんへの後ろめたい秘密となっている真紅のバラ。
利也さんの指先が、何度も触れる。

