気持ちが浮上しないまま、俯きがちに駅まで歩いていると、背後からポンポンと肩を叩かれた。
「今帰り?」
はっと振り返ると、静かに笑っている利也さんがいた。
「あ、お疲れ様です……あ、はい。今から帰るところです」
突然目の前に現れた利也さんに、言葉がうまく出てこなくてしどろもどろになる。
今まで落ち込んでいた原因そのものの人が目の前にいて、慌てないわけがない。
「そうか。普段残業で遅いって聞くけど、今日は早いんだね」
「あ、たまたま仕事が片付いたので。……利也さんも、お店は閉めたんですか?」
「今日は、寄りたい店があるからバイトの子達に任せてきた。
たまには息抜きしないとね」
利也さんは肩をすくめて小さく笑った。
大抵はお店でしか会えない利也さんと、こうして二人でいる事が不思議に思える。
そう言えば、美乃がいない時に会えるなんて滅多になかったなとも気付く。
美乃が側にいて初めて成立する利也さんと私の関係。
それに気付いた途端、やっぱり心が重くなった。

