翌日、なかなか鳴り止まない携帯の着信音で目が覚めた。
引っ越し前の部屋の片づけや整理を明け方までしていたせいで、まだ眠い。
リビングのソファで眠っていた体からは疲れが抜けきっていなくて、ほんの少し先にある携帯に手を伸ばすのさえも億劫だ。
「よいしょ、と」
まるでおばさんのような掛け声とともに手にした携帯を見ると、昨日登録したばかりの名前が目に入った。
「え?さ、真田くんっ」
一気に目が覚めて、慌てて通話ボタンを押した。
「も、もしもし、あ、あの、真田くん?」
「おはよう。真田くんです」
携帯の向こうから聞こえてくるのは、くくくっという笑い声。
「予想以上に驚いてくれて嬉しいんだけど、もしかしてまだ寝てた?」
おかしそうな声は昨日聞いた声と同じで、一瞬にしてあの整った顔も浮かんでくる。
「あ、うん、寝てたっていうか、寝たところで……」
「ふーん。部屋の片づけでもしてたの?」
あたふたと答える私。反対に、余裕の声の真田くん。ちょっと悔しい。
「え?なんでそれを、知って……きゃっ……いたっ」
どすん、という大きな音をたてて、私はソファから落ちてしまった。
きっとその音は携帯にも届いていて、真田くんにも聞こえたはず。
いてて……。
背中から落っこちたせいか、体中が痛い。
ただでさえ寝ぼけていたのに、『部屋の片づけ』なんて事を言われて驚いた。
どうして、その事を見抜いたんだろう。勘、良すぎでしょ。

