「そろそろこの部屋も片付けなきゃいけないな」
宝物がたくさん詰め込まれた部屋の片隅に座り込んで、ぼんやりと呟いた。
卒業式が終わればこの部屋を引き払い、結婚の準備に入る事となっている。
高校三年生で婚約をしたとはいっても、一度も会った事のない男性との結婚が間近に迫って、さすがに落ち込む時間も増えてきた。
結婚の話が持ち込まれて時には、先方から『高校卒業と同時に籍を入れたい』という申し出があったらしいけれど、それまで男性と付き合ったことすらなかった私には、地獄行きの申し出……はちょっと大げさだな。
けれど、それに近い恐怖心を呼び起こすには十分な話で、とうてい受け入れる事はできなかった。
せめて大学を卒業してからにして欲しいと、仲人さんのように間で取りまとめてくれていた葵さんに懇願した結果、その希望は叶えられた。
私の大学卒業を待ち、結婚するという約束が交わされて、両親の抱えていた借金が返せる事になったんだ。
そう。
私をお嫁さんに欲しいと望んでくれた男性は、かなりのお金持ちらしく、私がその男性と結婚する事と引き換えに、両親への援助をしてくれる事となった。
それからの私は、会ったこともない婚約者の存在に縛られ、恋愛を封印しながら生きてきた。
初恋すら、経験したことがないまま。

