甘恋集め


両親と弟が私を呼ぶ声が聞こえる中に浮かんでいる緑。

それが、私の一番の古い記憶だと思う。

何歳の記憶なのかはわからないし、その緑がどこのものなのかも謎のまま。
小学生の頃から何度か両親にその記憶について尋ねても、私が欲しい情報が返ってくるわけでもなく、緑しか浮かばない古い記憶の正体はまったくわからない。

私よりも幼かった弟に聞いても

『緑?そんな記憶、どっかおかしいんじゃないの?』

一蹴された。

大学に通いながら、両親の工場を手伝っている親孝行な弟の楓の事、大好きだけど、そう言われた瞬間は大嫌いになったっけ。

私の曖昧な記憶……それももしかしたら夢の中での記憶なのかもしれないけれど。

そんな記憶に囚われながら成長していくうちに、私は美大に通わせてもらう事となった。

記憶の中の緑に執着していた私は、その緑の正体を知りたいがゆえに、同じ色合いの緑を作り出したくて、絵を描くようになり。

気付けば、コンクールで賞を獲れるほどに、上達していた。

その才能に気付いた両親や高校の先生たちが美大への進学を薦めるのは自然な流れだったし、私の中にもそれを望む気持ちは大きかった。