バイト先まで送ってくれた真田くんは、
『じゃ、また連絡するから、お気に入りの屋根を見に来いよ』
運転席の窓から手を振って、実家だというあの家へ車を走らせた。
その車が見えなくなるまで見送りながら、交換したばかりのメアドと電話番号が登録された携帯を握りしめていた。
私がずっと見つめ続けていた緑色の屋根の家。
憧れのあの家が実家だという真田くんから、実家に招待されたけれど、バイトを休むわけにはいかなくて、
『すごく残念だけど、無理です』
そう断るしかなかった。
まるで奇跡としか言いようがない出会いを打ち切るような返事しかできなくて、本当に残念。
残念というよりも、悲しいと言ったほうがしっくりくるかな……。
ほぼ毎日眺めていた緑色の屋根は、私が夢見る憧れの色だ。
何度も、何通りも、たくさんの色を組み合わせてみても同じ色は作れない幻の緑。
今こうして、幻の緑とのつながりを自ら断ち切ってしまうしかないのが自分の人生なのかもしれない。
本当に欲しいものは、なかなか手に入らないという、私の人生を教えられた気がして、思わずため息も出てしまう。
何度も味わったのは、諦める切なさと、次へと気持ちを切り替えるしかない強さだ。
成長するにつれて、少しずつ受け入れてきた現実と、捨てきれない夢とのバランスがうまくとれなくて危うい。
我慢している気持ちが今にも爆発して、周りの人みんなを傷つけてしまいそうになる。
私を期待している人たちみんなを悲しませてしまいそうになる。

